動物愛護先進国ドイツ・オーストリアの動物保護法とペット事情⓵ 「安易な飼い主」を作らない流通規制


こんにちは、小人です。

今回は真面目なお話。

日本でも犬猫をとても大事にし、保護活動に身を捧げる方が沢山いますが、同時に「動物愛護法」には数々の批判と疑問が指摘されています。

動物愛護とはどうあるべきか。心からそれを問い続ける方と、
ペットの幸せを願うけれども、ペット産業についてまだあまり考えたことのない方。
日本と欧州の視点の違いに興味がある方。

そんな方達のために、動物愛護先進国として名高いドイツ、そして同様またはそれ以上に厳しいオーストリアの動物保護法やペット事情を紹介していきたいと思います。

今回はまず第一弾です。

動物保護先進国ドイツ・オーストリアの動物保護法とペット事情⓵ 「安易な飼い主」を作らない流通規制


初めに


動物保護先進国と言えばドイツですね。
隣接するオーストリアは公用語もドイツ語。
この二つの国は歴史的にも関係が深く、共通点がたくさんあります。
動物保護においても似通っているので、一括りにして「独・澳」として話を進めさせて頂きます。目立って違う項目には「オーストリアでは」と書き添えますが、それ以外にも細かな差異があることをご了承ください。
また、ドイツ語の法的な部分に関しては、小人は公文翻訳の翻訳者ではありません。一般レベルの翻訳としてご覧ください。


日本の「動物愛護法」、独・澳の「動物保護法」


日本では「動物愛護」と言いますが、ドイツ語では「動物保護」
どちらでも基本概念は「動物はおもちゃではない」だと思いますが。

ペットを指す日本語の「愛玩動物」という言葉。この言葉、小人にはとても気になります。

ドイツ語では「Haustier」で、直訳すると「家動物」。言い換える時は「4つ足の同居人」などの言葉を使います。
「ペット」という英語も「可愛がる」という意味で「愛玩」に近いですが、ドイツ語の表現に慣れていると、可愛がるのは言葉にする必要がない程の大前提もしくは個人の自由であるが、、単に「人の家に住む動物」の方がその存在を尊重すべきものとして認識している表現な気がするのです。


日本の動物愛護法の目的第一条
第一条 この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵かん養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。(日本電子政府の総合窓口から引用)

オーストリアの動物保護法の目的第一条(ドイツの条文とほぼ同じ)

§ 1. Ziel dieses Bundesgesetzes ist der Schutz des Lebens und des Wohlbefindens der Tiere aus der besonderen Verantwortung des Menschen für das Tier als Mitgeschöpf.
(オーストリア連邦法情報局から引用)
「この連邦法の目的は、共生する仲間としての動物に対する人間の特別な責任を以って、生命を保護し、動物達の清適を保護することとする。」

具体的な日本の条文に比べると、独・澳の条文は非常に簡素で全般的です。

日本の方のこの部分では「動物の」とありますが、読み進めるとペットや家畜動物の飼育や販売に関することに重点が置かれています。

対して独・澳では「適用範囲第一条1」に全ての動物に適用すると明記されています。
虐待・飼育売買などについての他、救済義務、動物実験、動物の運搬、家畜の扱い。
狩猟や漁業をサポートする動物、野生動物、動物園、サーカスやレビュー団の動物に至るまで広範囲に適用する法が細かく定められています。


小さい国であまり目立ちませんが、ドイツよりオーストリアの方が厳しい部分もあります。

例えば採卵養鶏のバタリーケージ飼育がEUで禁止されたのは2012年。
ドイツでは2010年。
オーストリアは一年早く2009年に禁止されました。

殺処分施設が無く施設に収容された動物は死ぬまでシェルターで飼育され、犬猫だけではなく爬虫類や鳥、果ては山羊や馬なども保護されるしはドイツも同じですが、道にうずくまった鳩ですら、通報すれば迎えに来てくれます。
オーストリアは世界中に有名な動物学者コンラード・ローレンツの出身地。それに恥じない姿勢だと思います。



国民の動物保護意識


ドイツ・オーストリアの中・高校生で「流行る」もの。
それは環境と動物保護。
社会問題に興味を示し始める年頃で一番とっつきやすいテーマとも言えますが、エネルギー溢れる若者ですからかなり熱中します。

グリーンピースなどの環境問題と動物保護両方を提唱したり、動物保護に専念するVier Pfotenなどの団体の会員になる学生もとても多いです。

若い時からそうであれば社会人になっても自然に身につくのでしょう。

誰か軽率な事を言ったりしたりしたら、身近に嗜める人がいたり、社会で動物保護に反する何かがあれば非難の声が殺到。

保護活動家は多少没頭しすぎの感もあることも否めませんが、そういう傾向があるからこそ変化を作っていけるのかも知れません。

ペット産業の裏に隠れた現実


日本のペット業界は巨大な市場を持つ「商業」。
商業であるからには、売り上げを追います。

買うつもりのない人をいかに買う気にさせるかが商業ですから、可愛い仔犬や仔猫の姿が目に入るように陳列して、メディアと相まって流行を作り、ブリード種を大量に流通させます。

その裏の現実は売れるのを見込んでの生産と売れ残り廃棄。2月の恵方巻きと変わりはしません。
絵方巻きと違うのは、生き物には毎日コストと手間がかかる事です。


YouTubeのAlivedougaから


無理なほど繁殖を繰り返させて、生まれた子犬子猫は可愛いうちに売ルために早くから引き離されます。
ひどい時には4週齢で別れさせられるとか。

病気への抗体が十分備わり、他の動物や人間と上手に付き合うための社会化に必要な期間は最低生後8週間
その期間も終わらぬうちから陳列されます。


ドイツ・オーストリアでは陳列販売が禁止なだけでなく、ブリーダーからの引渡しは12週齢以降と決められています。
陳列禁止の主な目的は動物の保護ですが、衝動買いを煽って安易に飼育を始めるのを防ぐ効果もあります。

譲渡や売買でも、その場で買わせる事を促すどころか、一晩帰って考えなさい、と言われます。
「今でないと。。」と匂わせる人は「怪しい」商売人の証拠です。

小人の経験では、ブリーダーのところに行っても、特に抱かせようとはしません。眺めたいように眺めさせてくれて、動物と面会者が自由に出会える空気を大切にしてくれるように感じました。
抱かせるのは即買いに最有力な技なのに。

ペットのプレゼントも、クリスマスやイースター前には牽制の声が各所で上がります。
子供が欲しがってるからプレゼントにしたら飽きてしまった。そうしてネグレクトされたり捨てられる動物を出さないため、どうしてもというならよく確認してから。

日本のペット業界の行動と反対ではありませんか。

店頭やメディアの仔猫姿に魅了され、衝動買いした人のどれだけが、最後までその子を大事にしてくれますか。
動物でも子供は手がかかるものです。

可愛い「期限」が切れた猫を欲しがりますか。安い買い物ですらないのに。

売れ残った犬猫には、恵方巻きと大して変わらない運命が待ってます。

「処分」です。


生体販売は、動物親子に無理を強い、捨て犬捨て猫が出やすい社会を作るのです。


参考にどうぞ。↓Days Japanのサイトから。
「商品」になれなかった犬猫たち 闇の犬猫「引き取り屋」





独・澳の人気は雑種。欲しいのは種類でなくて単に「犬猫」


ドイツの統計では、一番好まれている犬の種類は雑種だそうで、2018年の新規登録で一番多かった犬種ラブラドールレトリバー約二万頭に対して雑種は八万七千頭を数えたそうです。

大半の人が飼いたいのは、その辺どこにでもいそうな、雑種の、ごくごく普通の犬猫。
田舎の納屋で勝手に生まれるみたいな、何の変哲も無い、猫!

特定のブリード種流行も勿論ありますが、人為的に繁殖をする事が不自然で無理と感じる人も多いです。

ちなみに犬猫を飼育することには非常に好意的で、基本的に殆どのアパートで1〜2頭の犬、数匹の猫の飼育はOKです。
(それでも一応確認するのを忘れずに!)


一番の窓口は動物保護施設


犬猫が欲しい人が足を向けるのは、まずシェルターです。
事情があって飼えなくなったペットや飼い主の見つからなかった迷い猫、時には捨てられた犬猫もやはりいます。
もちろん雑種も多いですが、ブリード種がいる事も稀でないのには少々驚きました。
長毛種の猫もいますし、微妙な発言になりますが、あまり見かけない毛の色の雑種もいたりします。
終身飼育ですからキャパシティも一杯ですが、ルーマニア、スロベニア、スペインなどの旧東側諸国や近隣諸国でTNR活動をしながら、国民の生活が安定しているドイツ・オーストリアで譲歩している団体がたくさんあります。
自国だけでなく、そこまで手が回るのは羨ましいくらいとも言えます。



譲渡費用

ドイツでは無料で譲渡してくれる事が多いようですが、オーストリアのシェルターには諸費用負担分を払います。

猫の場合はEUR 70〜EUR 150(約9000円〜15000円)程です。

ブリード種の仔猫がEUR 500〜EUR 1000(約63000円〜125000円)で買えることを考えると、成猫もしくは老猫で障害や病気を持った子もいるシェルター猫にこの「値段」は。。。と一瞬思うかも知れません。

しかし保護施設では寄生虫駆除や病気・怪我の手当てはもちろん、マイクロチップ、ワクチン、避妊・去勢手術、健康診断をしてますから、それらを自分ですることを考えたら同じか、もしくは更に費用がかかります。
少々の支払いが必要なことで、飼育意志の確認にもなります。

身分証明書を確認したら契約書が発行されます。

犬猫飼育における法律で定められた義務のまとめのようなもので、それに沿った飼育するという誓約書のようなものですね。


審査

審査は団体によって差があり、捕獲した人やその後世話をしている人に決定権がある事も多いです。
小人はその二人の間で意見が合っていなくて、それぞれが板挟みになって消耗した経験があります。

飼い主の収入や年齢、生活形態は責任感を感じてもらえれば、話の中でチェックする程度が多く、これに関しては日本の方が厳しいかも知れません。

生活状況に合った猫を提案して貰えるのが、保護施設のいいところですね。

一番ハードルが高いと小人が思うのは、それぞれの動物の立場からつけられる条件です。


シェルターに猫に会いに行った時の写真




条件

犬に関してはあまり詳しくないですが、猫の場合はかなり条件が多いです。
  • 庭があって外歩きが出来る
    または
    完全室内飼いのみ
  • 一匹飼い(病気だったり、他の猫や人が苦手)
  • 兄弟猫と2〜3匹セット
  • 終身必要な病気の治療
シェルター猫の多くが近隣諸国のストリートキャッツで、しかもその場に残したら自力で生きるのが難しそうな個体を譲渡に連れて来てるだけに、こういった条件が多く、ここは絶対譲歩無し。
譲渡後もその犬猫が安心して幸せに暮らせる環境を確保することが最重要になっています。
動物達のためにはとても大事で良い事と思いますが、これのマッチングは結構難しいものです。

街中の場合はアパートが一般的で庭どころかベランダも稀少ですし、
今飼ってる猫の友達にもう1匹を探す場合は、結構困難。

手間暇経費をかけて不幸な犬猫を助けたい人、今一緒に住んでる動物がいない人向けとも言えるでしょう。

その他の条件は法律で決められてる項目で、家の広さは十分か、猫なら転落防止のネットを窓に設置してるか、等。
時には訪問チェックもあります。

入手のもう1ルート、ブリーダー

シェルターの犬猫の条件あなたに合わなかったら、ブリーダーで純血種を探す手があります。
代金さえ払えば晴れてハニーを頂戴できるのだから、有難いものかも知れません。
もっとも、年中「商品」がいるとは限りませんが。

ブリーダーの規定は協会が仕切っているようですが、やはり細かいです。

登録、飼育環境は勿論ですが、交配そのものに関する規定がとてもきちんとしています。
これも猫の場合の例になりますが、
  • 10月齢以上
    健康な個体のみで、一緒に飼われている猫にも病気の猫がいない事。
  • 24ヶ月以内に出産は最高3回まで
  • 出産と出産の間は五ヶ月以上開けなくてはいけない
  • 異種同士の交配、親族交配についての規定、
    特定の目や毛の色の交配の禁止、遺伝性欠陥を持つ猫の交配禁止
  • 抜爪禁止
  • 生まれた仔猫にはマイクロチップ装着と登録が義務
  • 子猫の引渡しは最低満12週齢以降
など。
売買に関してはペットショップや百貨店への展示・出荷を禁じられています。


農家もブリーダー?!


どこの国でも農家には猫がいますよね。
オーストリアでは飼い猫に外歩きを許すなら避妊・去勢が義務付けられています。
それは農家にも同じ事で、農家の飼い猫に去勢手術がされてない場合、ブリーダーと見なされて登録が義務付けられ、生まれた仔猫も商用繁殖という事でチップと登録の義務があります。
「勝手に増えた」の言い訳は通用しないのです。

個人譲渡告知が禁止に

世界どこでもいつでも健在なのは個人の口コミ。
シェルターもブリーダーも選択肢外でも、知人友人のつてがあります。

皆に訊きまくっても譲れる犬猫なんていないよ、と言われたら、インターネットの譲渡サイトやスーパーの掲示板で探そう!

。。。と、思ったら、これは大間違い。

オーストリアでは2017年から公の場所で個人が犬猫譲渡や里親募集をかける事が禁止になりました。
「公の場所」とはインターネットや新聞、スーパー等の商業施設の掲示板を意味します。

里親探しに許されるのは
  • 知人友人に口づて
  • 保護団体を通して
  • 獣医師や動物病院を通して
の3方法のみになりました。

これには小人も少なかれ驚きました。

雑種はそのうちいなくなる?


小人は雑種が好きです。
純血種より丈夫と聞きますし、見た目も性質も個性的。
第1期生の3匹も、今いる2匹の猫も全員雑種です。

以前は個人の里親募集はとても多く、繁殖シーズンにはブリーダーやシェルターより上回る数がネットに並んでいました。
それが規制された今、雑種の仔犬・仔猫を見つける場所は大幅に減少。
これからは雑種の猫が欲しければ愛護団体、純血種ならブリーダー、その2選択しかないようなものです。

ブリーダーは基本雑種は扱いませんし、シェルターは去勢済みの成猫・成犬。
仔猫・仔犬の場合は譲渡後の避妊・去勢手術が条件ですから、

つまりこれからは増えない犬猫だけになっていく訳です。

つまりいつかは、雑種自体がオーストリアからいなくなるのでは?!

(いえ多分、近隣諸国から来続けてくれると思います)



外を歩く飼い猫の去勢は義務付けられているものの、現実にはチェックがある訳ではないですから、知らん顔の人もいます。
しかし里親探しが困難になれば増やさない努力も増えるもの。
「うっかり妊娠」と申し開きしながら仔猫を売り、お小遣いを稼いでた人も、もう商売にはならないでしょう。

加えてマイクロチップですが、犬の場合は原則的に全ての犬にチップ義務があります。
猫の場合は外歩きを許す場合義務になります。完全室内飼いには「奨励」ではありますが、義務はありません。
しかしソースが限られた以上、時期に殆どのの猫がチップ装着済みになるでしょう。


どこか寂しい気もしますが、動物保護と、不幸なペットを出さないためのステップとしては、かなり進歩的だと思います。

「安易な飼い主を作らない」
オーストリアの動物保護法は、ペット商業の影で生まれるペット問題に、着実に王手を打ったのではないでしょうか。


小人家の雑種2匹
一緒に長生きしようね





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