動物福祉先進国ドイツ・オーストリアのペット事情⓶犬と社会の協調のための4つの取り組み【前編】登録と犬税

ドイツ・オーストリアの犬の飼育

こんにちは、小人です。


「なんて犬好きが多いんだろう」
ヨーロッパに来た頃、そう思いました。
電車やレストラン、お店など、あちこちに犬がいるのです。
朝晩犬を連れてトイレ散歩に出かけるというのではなくて、人がどこか行くのに一緒に連れて出てる感じで。
(反面、猫に出会う事が無くて驚きました。)

その犬たちもお利口なもので、素直に飼い主に従って歩いています。
レストランでもおとなしく寝ているし、入り口に「犬はここで待っててね」と書かれたお店の前では、リードに繋がれたまま吠えもせずに座って待っていたり。
お店やオフィスではボスや従業員さんの犬に出会う事もよくあります。
その癖、自宅にいても隣上下から吠え声が聞こえてくる事は殆どありません。

犬が社会生活に上手に溶け込んだヨーロッパ。
どうやってそのハーモニーを可能にしているのか。

前回の記事でドイツ・オーストリアの動物保護の概念や流通などについて紹介しましたが、犬の飼養について少し詳しくご紹介しようと思います。

(前記事はこちらからどうぞ→動物愛護先進国ドイツ・オーストリアの動物保護法とペット事情⓵ 「安易な飼い主」を作らない流通規制


動物福祉先進国ドイツ・オーストリアのペット事情⓶犬と社会の協調のための4つの取り組み【前編】登録と犬税



犬が人に飼われるようになったのは石器時代だそうです。
農作物や家を守る番犬として、狩猟の際の助っ人として、世界のあちこちで人と暮らしてきたのではないかと思います。

小人が日本で暮らしていた時、犬が苦手な友達が何人かいましたが、ヨーロッパに来てからあまりそういう人を見ません。

古くから放牧が続いていて、古くから実益と趣味として狩猟が行われてきた関係で犬との関わりが古いのか。
もしくは自宅の中でも靴を履いたままな習慣で、犬もそのまま家の中で飼う習慣のせいなのか。
よく調べた訳ではないので定かではありませんが、隣に犬がいることがごく自然に思われている印象があります。

更にヨーロッパは個人主義。
自分自身に直接な迷惑がかからない限り、他人のする事にとやかく言いません。
犬が苦手だったとしても、静かに隣にいる分には文句はないという風です。

猫と違って人と一緒に出かける事が多い犬。
ドイツ・オーストリアの動物福祉法は、動物愛護的な視点から流通や飼養をしっかりと管理して、同時に飼い主の責任と配慮が十分に行き渡り、犬達と社会が上手に協調できる体系を作り上げています。

犬の飼育で問題になりがちなのが衛生(糞の置き去り)、捨て犬・野良犬、騒音(吠え声)、咬傷事件の危険等ですね。
捨て犬に関しては、前の記事で書いた流通規制だけでも随分減りますが、飼い主にも義務付けられてる事があります。
地方や自治体によって多少の違いはありますが、このような項目です。

1)登録とマイクロチップ装備義務
2)犬税
3)犬免許(飼い主資格)
4)飼育に関する法令

1)登録とマイクロチップ

登録義務はほぼどこの地方にもあり、マイクロチップ義務とセットになっている事が多いです。
子犬の場合は月齢三ヶ月、その他の犬は引き渡し前にチップを装着し、装着から一月以内に該当する自治体や役所に登録します。

大体どこの獣医師でもチップリーダーがあり、迷い犬と飼い主が特定しやすいのと同時に捨て犬防止に効果を発揮します。

登録のもう一つの目的

行政が登録を徹底しようとするのには、もう一つの目的があります。
密輸防止です。

ヨーロッパ諸国は陸続き。そして欧州連合があります。
EU国籍を持っていれば、EU内の移動は難しくはありません。空路ならまだしも、陸路には小さな国境がいくつもあり、入国審査が無いも同然なルートも。
欧州連合加盟国の中には経済水準と生活水準が追いつかず、動物福祉まで手が届いてない国があります。

そういった国で繁殖させた犬をドイツやオーストリアで売れば、厳しい規制に基づいて繁殖する自国のブリーダーの市場が荒れるだけでなく、管理しようとしている病気が持ち込まれることもあります。


糞放置罰金の看板
糞放置罰金の看板、可愛いです。(画像:www.w24.at)

2)犬税


犬の保有者が毎年納める犬税。
「犬の糞処理費用のため?」と思いがちですが、実は目的税ではなく一般税収で、使い道は犬のために限られません。
古くは中世、そして1800年頃からあちこちの地方で次に導入され、廃止になったり、また再開したりを繰り返してきました。

当時の目的は、家畜以外の犬を飼う家はそれなりの経済的余裕があるものとした「贅沢税」のようなものだったそうで、貧困層の救済資金や戦争の借金返済に当てたそうです。
別の地方では狂犬病被害を防ぐため、犬の数を管理し、同時に飼い主の意識を高めるために導入されました。

現代でもこれらの目的がそのまま残っているようです。
狂犬病に関しては予防接種が義務になっていますが、犬の数の抑制や飼い主意識の徹底は咬傷事故を防ぐためにも一役買っています。

飼育費用の計算に犬税を入れなくてはいけないだけに、ますます容易にに飼い始めるわけにはいきませんし、多頭飼いなると更に負担が大きくなります。

犬を捨てる人がいなければ殺処分も不要。
事実オーストリアやドイツでは殺処分の施設が無く、保護された犬は死ぬまで面倒を見て貰えるか、又は譲渡されて新しい飼い主を見つけます。
保護団体はいつも「満杯」のようですが、自国の犬は多くはなく、ルーマニアやポーランドなどの近隣の国から野良犬を保護して連れ帰り、里親を募集しているほどです。


犬税の有無や税率は自治体の権限で決められていて、地方によって大きく違います。
2頭目から増額になる地方も多く、危険とされる闘犬や狩猟犬は大幅に高い事もあります。
例えばミュンヘンでは闘犬一頭につき年間800ユーロ。日本円にすると10万円に近いですから、確かによく考えない事には飼い始められませんね。

危険犬種とされるのは次の犬種です。
(これもやはり地方で違う事があります。)

ブル・テリア、スタッフォードブルテリア、アメリカンスタッフォードテリア、マスティーのナポレタノ、マスティんエスパニョール、ブラジリアン・ガード・ドッグ、マスティフ、ブルマスティフ、土佐犬、ピットブル、ロットワイラー、ドゴ・アルヘンティーノ

ドイツ・オーストリアの犬税 料金表
例を表にしてみました

税率は毎年見直されます。
変更があるとは限りませんが、急に大幅に上昇することもあり、オーストリアの一部では今年62%もの引き上げがありました。
一頭ならまだしも、数頭飼っているお宅には大打撃に違いありません。

犬税の免除


犬はコンパニオンアニマル

(画像©︎Sven Lachmann/Pixaboy)

闇雲に税を義務付けても、本末転倒になりかねません。
コンパニオンとしての価値も認められていますし、免除もあります。

盲導犬や救助犬、保護団体や販売用及び繁殖用の犬はペットとして飼育されてるとは言えませんから、免除対象です。特定の施設や農業地の番犬も同様です。

失業保険や生活保護受給中の人も、申請を提出すれば免除または減額が受けられます。

ベルリンでは、保護団体から引き取った犬に初年度免除、ウィーンでは犬免許(犬飼育免許)を取得すると翌年免除など、動物愛護や飼育の徹底が上手に結び付けらている例もあります。


登録や納税をしないと50ユーロから最高5000ユーロまでの罰金が課されます。
特に厳しい例はミュンヘンで、複数の犬を何年間も登録していない場合、懲役刑になることもあります。


用途は決まってないとはいえ、犬のために使われる事ももちろんあります。
犬専用の「犬公園」には芝生のドックランがあり、大きな公園の一角を仕切った「ドッグゾーン」では空き時間に犬を運動させるが出来ますすし、犬同士と飼い主の交流に役立っています。
犬の糞回収は飼い主の義務ですが、街のサービスとしてゴミ袋やディスペンサーが設置されていたりします。

犬用ゴミ袋 ディスペンサー
ウィーン市の犬糞用ゴミ袋ディスペンサー
(画像:www.wien.gv.at)

犬税をめぐる議論


小さな出費とは言えない犬税ですが、犬好きな国民がこれをどう受け止めているかと言いますと。

一般的には割と理解が深く、甘んじて受けている感があります。
犬税は犬のための税金だと思っている人も多いかも知れません。
犬用設備も設けられていますし、置き去りにされた糞も清掃局の道路清掃で片付けられますから、犬のために使われてない訳ではなく、それらの費用は犬税を上回るという話もありますから、用途は大して重要ではないかも知れません。

犬税同様に馬の保有にも税が課せられています。
「ペットの飼育」に対する税なら、猫や鳥にも課すべきだと言う意見もあり、事実、そちらも導入されるとの噂が聞こえてくる事もあります。

まあ、もともと税金が高い国ですから、なんでも税金がかかるのに慣れているのかも知れません。


反対意見としては、

犬税の代わりに糞放置の罰金を高額にすべきだ、

ペット用品販売は右肩上がりで、税収や職場数で多大な経済効果をもたらすものとして、犬税は廃止して促進すべきである、

などが議論されています。

もう一度申し添えますが、ここに書いた犬税の詳細は、地方によって違います。
ドイツ・オーストリアにお住いの方で犬を飼おうと思う方は、市役所などで確かめて下さい。


登録と犬税で基盤を作った上で、実際の社会と犬の調和を確保するために欠かせないのが飼い主の意識の向上です。
公共の場に犬を連れて行くのに欠かせないのは、周囲の安全を確保する事。
そのために広く浸透してるのが、ドッグスクールと犬免許です。

長くなりましたので、今日はこの辺にして、次回はそのふたつについて語りますね。


では!


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